年俸制の会社に入るときに気をつけること
年俸制という言葉には、少し魅力的に見える響きがあります。
月給制よりも年収総額が見えやすいですし、ボーナス込みで提示される場合は、今年いくらもらえるのかが比較的わかりやすいからです。
実際、月給制で賞与の比率が高い会社よりも、年俸制の方が生活の見通しを立てやすいと感じる人は多いと思います。
ただし、年俸制の会社に入るときに本当に見るべきなのは、年収の見えやすさだけではありません。
見るべきなのは、その会社が報酬をどう配分し、どれだけ頻繁に動かす気があるかです。
もっと言えば、その人事制度が会社にとって何を管理しやすくするためのものなのかを見た方がいいです。
この記事では、年俸制の会社に入る前に気をつけたいポイントを整理します。
年俸制は、一見するとわかりやすい制度に見える
年俸制のわかりやすさは、やはり総額が先に見えることです。
月給制だと、
- 月給はいくらか
- 賞与は何か月分か
- 業績でどの程度ぶれるか
- 固定残業代はどこまで含まれるか
といった要素を自分で組み立てないと、実際の着地が見えにくいことがあります。
その点、年俸制は最初から総額で示されるので、入社時点では親切に見えます。
少なくとも、オファーの見栄えは良くなりやすいです。
ただ、ここで安心してしまうと危ないです。
年俸制は、見通しが良い制度ではありますが、必ずしも柔軟に報酬が動く制度ではありません。
むしろ逆で、一度決まった報酬をその年度の中では動かしにくくする制度として機能している会社もあります。
気をつけるべきは、評価頻度ではなく報酬改定頻度
年俸制の会社を見るときに、まず切り分けた方がいいものがあります。
それは、評価頻度と報酬改定頻度です。
この2つは似ているようで、まったく別です。
たとえば会社はよく、
「評価は半期ごとに行っています」
「目標管理はしっかりやっています」
「1on1も定期的にやっています」
と説明します。
ですが、その一方で、
「給与改定は年1回です」
ということが普通にあります。
このとき従業員にとって重要なのは、評価コメントが年に何回返ってくるかではありません。
重要なのは、その評価がいつ金額に反映されるのかです。
年俸制の嫌さは、評価されることそのものよりも、上がらなかったときの次のチャンスが遠いことにあります。
今回はダメでした、で終わるのではなく、
今回はダメでした、そして次の大きな修正はかなり先です、
となると、一気に見通しが暗くなります。
これが年俸制のしんどさです。
年俸制の会社は、何を考えてその制度にしているのか
ここは少し引いた目線で見た方がいいです。
人事制度は、中立な仕組みではありません。
会社が何を管理したいか、何を固定したいか、何を後回しにしたいかが反映されています。
年俸制の会社がその制度を採る理由として、従業員側がまず疑った方がいいのは次の点です。
1. 人件費の総額をコントロールしやすい
年俸制は、年間の報酬総額を先に固めやすい制度です。
会社にとっては予算を引きやすく、途中の変動も抑えやすいです。
もちろん、予算管理そのものは悪いことではありません。
ただ、従業員側から見ると、これは裏返すと年度の途中で大きく上げる気が薄いということでもあります。
2. 報酬改定のタイミングを絞りやすい
年俸制の会社では、報酬改定を年1回に寄せやすくなります。
すると会社は、昇給の議論を特定の時期にまとめられます。
これも運営上は合理的です。
ですが、働く側からすると、成果を出してもすぐには反映されにくくなります。
つまり、年俸制は
上げるならまとめて上げるが、頻繁には動かしたくない
という会社の考えと相性がいい制度です。
3. 賞与の議論を吸収しやすい
月給制だと、賞与の比率が高い会社では、毎回の賞与査定が心理的なイベントになります。
年俸制はそれを年収総額の中に吸収しやすいので、従業員からするとすっきり見えます。
ただし、その分だけ「今年の総額はこれです」という固定感が強まります。
見通しの良さと引き換えに、機動的な修正余地が減るわけです。
高いオファーが出たからといって、気前のいい会社とは限らない
年俸制で高めのオファーが出ると、つい「この会社はちゃんと評価してくれそうだ」と感じます。
ですが、それだけで判断するのは危険です。
入社時の提示額が高いことと、入社後に継続的に上げてくれることは別です。
むしろ会社によっては、
- 入社時には見栄えのよい年収を提示する
- ただしその後の改定は年1回に固定する
- 相対評価で配分を絞る
- 上がる人は限られる
という構造になっています。
この場合、最初の条件は良く見えても、入ってからの期待値はそこまで高くありません。
年俸制を見るときは、提示額そのものよりも、その後の上がり方の設計を見た方がいいです。
相対評価とセットなら、かなり注意した方がいい
ここはかなり重要です。
年俸制それ自体よりも、年俸制と相対評価が組み合わさっている会社の方が、従業員にとっては危険なことがあります。
なぜかというと、相対評価は「みんなの中でどこに位置するか」で配分を決める仕組みだからです。
絶対評価であれば、自分が一定の基準を満たせば上がる可能性があります。
ですが相対評価では、自分が頑張ったかどうかだけでは足りません。
周囲との比較で勝てるかどうかが入ってきます。
そのうえで報酬改定が年1回しかないと、
- 今年かなり頑張った
- でも周りも強く、上位に入れなかった
- 結果として上がらなかった
- しかも次のチャンスはかなり先
ということが起きます。
これはかなりしんどいです。
年俸制の問題は、単に給料が固定されることではありません。
相対評価の結果が長期間そのまま残りやすいことです。
今年外したときのダメージが、来年まで続く。
これがモチベーションを削ります。
相対評価が向いている人と、そうでない人がいる
ここも冷静に見た方がいいです。
年俸制と相対評価の組み合わせが、すべての人にとって悪いわけではありません。
このゲームで勝てる人にとっては、有利に働くこともあります。
たとえば、
- 成果が目に見えやすい仕事をしている
- 比較対象に勝ちやすい
- 期待される役割がはっきりしている
- 自分の年収に見合う価値を継続的に出せる自信がある
- 評価者との相性も含めて立ち回れる
こうした人にとっては、相対評価もそこまで大きな問題にならないかもしれません。
逆に向いていないのは、
- 目立ちにくいが重要な仕事をしている
- チーム全体の下支えが多い
- 周囲も強く、差がつきにくい環境にいる
- 年ごとの上下で強く消耗しやすい
- 今年外したときの心理的ダメージが大きい
こういうタイプです。
特に、会社を回すうえでは必要なのに、成果が個人のスコアとして見えづらい仕事は、相対評価で割を食いやすいです。
その状態で年俸制まで重なると、頑張っても次の改定まで長く固定されるので、納得感を失いやすくなります。
年俸制の会社に入る前に確認したいこと
ここまでの話を踏まえると、入社前に確認したいのは単なる年収額ではありません。
少なくとも、次のような点は見た方がいいです。
報酬改定は年に何回あるか
評価頻度ではなく、給与が実際に動くタイミングを確認した方がいいです。
評価は絶対評価か、相対評価か
相対評価なら、どの程度まで強く運用されているかも重要です。
上がる人の割合はどのくらいか
全体として毎年広く上がるのか、一部だけ大きく上がるのかで、制度の意味は変わります。
年俸の中に何が含まれているか
固定残業代、賞与相当額、その他の手当がどこまで含まれているかは必ず見た方がいいです。
途中改定の例外はあるか
昇格や役割変更で途中改定があるのか、それとも本当に年度末まで固定なのかは大きいです。
評価されやすい仕事の型は何か
売上、採用、案件獲得、派手な成果のように見えやすいものが強いのか、運用改善や品質向上のような地味だが重要な仕事も評価されるのかは見ておくべきです。
まとめ
年俸制の会社に入るときに気をつけるべきなのは、年収総額の見やすさだけではありません。
本当に見るべきなのは、
- その会社が報酬をどれだけ頻繁に動かす気があるか
- 相対評価で配分を絞る設計になっていないか
- 今年外したときに見通しが一気に暗くならないか
- そもそもその制度で会社が何を管理したいのか
です。
人事制度は、会社の優しさではなく、会社の都合で設計されます。
だから制度の名前だけを見ても意味がありません。
年俸制かどうかよりも、
その制度で何が固定され、何が動かず、誰が勝ちやすいのか
を見た方がいいです。
年俸制の会社に入るときは、提示額の高さだけで安心しないことです。
見るべきなのは、その会社があなたの報酬をどう配分し、いつ見直し、どれだけ本気で上げる気があるのかです。



