ベンチャーはやめとけと思う理由
「ベンチャーは若いうちに成長できる」
「裁量がある」
「大手より早く市場価値がつく」
こうした言葉は、就活や転職の場面でよく見かけます。
ただ、個人的には、若手ほどベンチャーは慎重に見た方がいいと思っています。
もっと率直に言えば、よほど条件が揃っていない限り、ベンチャーはやめとけというのが今の考えです。
もちろん、すべてのベンチャーが悪いと言いたいわけではありません。
実際には良い会社もあります。
ただし、構造として見たときに、ベンチャーは若手にとって外れを引きやすい。
そして厄介なのは、その外れが「成長環境」という言葉で美化されやすいことです。
この記事では、なぜ自分が「ベンチャーはやめとけ」と思うのかを整理します。
ベンチャーが魅力的に見える理由
最初に、なぜベンチャーが人気なのかを整理します。
理由は単純で、若手に刺さりやすい言葉が並んでいるからです。
- 若いうちから裁量がある
- 年次に関係なく任せてもらえる
- スピード感がある
- 会社と一緒に成長できる
- 大手よりも早く出世できる
- 将来の大きなリターンが狙える
たしかに、言葉だけ見れば魅力的です。
特に、早く成長したい人や、何か大きなことをやりたい人には強く響きます。
ただ、ここで一度立ち止まった方がよいです。
ベンチャーで語られる魅力のかなりの部分は、
本当に価値のある経験ではなく、未整備な環境に放り込まれることと混ざっています。
ここを分けて考えないと危ないです。
1. 収益が安定しない会社は、結局そこで働く人も不安定になる
まず大きいのはこれです。
ベンチャーは、そもそも事業基盤が安定していないことが多いです。
- 収益源が細い
- 一部の顧客や案件に依存している
- まだ再現性のある利益構造ができていない
- 成長より先に資金繰りを気にしないといけない
こういう会社では、社員の育成や制度整備よりも先に、まず会社を生き残らせることが優先されます。
すると何が起こるかというと、若手が安心して学べる環境になりません。
- 教育コストをかける余裕がない
- 長期育成より即戦力化を急がれる
- 急に方針が変わる
- 採用も評価も、その場の都合でぶれやすい
会社が安定していない以上、そこで働く人のキャリアも安定しにくいです。
若手が最初に入る会社として大事なのは、夢や勢いよりも、
きちんと学習投資を受けられる土台があるかです。
土台が弱い会社では、どうしても「自分で勝手に育ってね」になりやすいです。
2. ベンチャーの「成長」は、ただ負荷が高いだけのことが多い
ベンチャーの魅力として最もよく語られるのが「成長」です。
ただ、この成長という言葉はかなり危険です。
なぜなら、中身が曖昧だからです。
本来、若手にとって価値がある成長とは、たとえばこういうものです。
- 再現性のある業務の進め方を学べる
- まともな上司や先輩からレビューを受けられる
- 分業された組織の中で専門性を高められる
- 大きな事業や成熟した仕組みから学べる
- 自分の判断がなぜよかったか、なぜ悪かったかを言語化してもらえる
一方で、ベンチャーで成長と言われがちなものは、別物であることが多いです。
- 人が足りないので何でもやる
- 仕組みがないので場当たり的に対応する
- オペレーションを人力で回す
- 属人的な仕事をとにかく抱える
- 常に火消しで忙しい
これは確かに大変です。
そして、本人も「これだけ大変なんだから成長しているはずだ」と感じやすいです。
ただ、厳しい環境にいることと、市場価値が上がることは同じではありません。
忙しさは成長の証明になりません。
負荷が高いことも、成長の証明にはなりません。
むしろ問題なのは、ベンチャーほど
未整備な環境で消耗することを、成長と呼びがち
なことです。
ここを見誤ると危ないです。
3. オペで人力で何とかする構造が多く、労力の使い方が悪い
個人的には、ここもかなり大きいと思っています。
ベンチャーはよく「スピード感がある」と言われます。
ただ実態としては、システムや仕組みが整っていないので、
人力で無理やり回しているだけのことがかなりあります。
- 本来システム化すべきことを手作業で回す
- ルールが曖昧なので確認コストが増える
- 権限や責任の線引きが弱い
- 誰かの気合いで運営が成立している
- 作業の再現性が低く、引き継ぎも弱い
こういう環境では、頑張っている割に、身につく力が限定されやすいです。
もちろん、泥臭い仕事を経験すること自体が無価値とは言いません。
ですが、そればかりだと、結局は「その会社でしか通用しない回し方」に慣れるだけになりがちです。
本当に学ぶ価値があるのは、
- なぜその仕組みになっているのか
- どうすれば少人数でも回るのか
- どうすれば属人化を防げるのか
- どうすれば再現性を持たせられるのか
という設計の側です。
にもかかわらず、ベンチャーでは設計より運用、仕組み化より根性論に寄りやすいです。
結果として、若手の貴重な時間が、
無駄な摩擦を乗り越えることに消えていきます。
4. 小さい事業での経験は、思ったほど汎用性が高くない
ベンチャーに行く人の中には、
「小さい会社で事業全体を見た方が力がつく」
「大手の一部分しか知らない人より、広く経験した方が強い」
と考える人もいます。
一理あります。
ただ、これも半分だけ正しいです。
たしかに、小さい会社では幅広く触れられます。
でも、幅広く触れることと、深く理解できることは別です。
むしろ成熟した会社の方が、
- 役割分担が明確
- 評価基準がある
- 仕組みが洗練されている
- 専門家がいる
- 大きな売上や大量の顧客を回す構造がある
という強みがあります。
未完成なモデルから学べることもありますが、
完成度の高いモデルから学べることの方が多い場面は普通にあります。
特に新卒や若手は、最初から我流に寄るより、
まず完成度の高い型に触れた方が強いです。
ゼロから作る力は、型を知った後でも身につきます。
ですが、型を知らないまま我流だけで走ると、変な癖がつきやすいです。
5. 成功時のうまみは、ほとんど創業者側にある
ベンチャーには夢があります。
ただ、その夢の配分は平等ではありません。
事業が大きく当たったときに最も大きなリターンを取るのは、基本的に創業者やごく初期のコアメンバーです。
一方で、新卒採用を始めている段階の会社はどうか。
この時点ではもう、学生が想像するような「初期の大きな果実」はかなり薄まっていることが多いです。
- ストックオプションがあっても期待値は限定的
- そもそも上場やM&Aまで行ける会社は少ない
- 行けたとしても、配分の中心は上に寄る
- 若手の給与や教育体制は大手に劣ることも多い
つまり、若手目線で見ると
リスクは高いのに、見返りはそこまで大きくない
というケースが普通にあります。
これはかなり重要です。
ベンチャーのリターンを語るとき、人はつい「当たったら大きい」を見ます。
ですが、若手が見るべきなのは、自分に実際どれだけ配分されるのかです。
そこを冷静に見ると、意外とうまみは薄いです。
6. 「ベンチャーだから仕方ない」が未整備の免罪符になりやすい
これもよくない点です。
本来、組織の未整備は課題です。
ですがベンチャーでは、それが文化として正当化されやすいです。
- 評価制度が曖昧でも、まだ若い会社だから
- 教育体制がなくても、ベンチャーだから
- 業務分掌が雑でも、スピード重視だから
- ルールがなくても、柔軟性があるから
- 人が辞めても、合う人だけ残ればいいから
こうして、未整備がずっと未整備のまま残ります。
しかも厄介なのは、ここに「当事者意識」「覚悟」「オーナーシップ」みたいな言葉が乗ることです。
制度や仕組みの弱さを、個人の熱量でカバーさせる構造です。
もちろん、社員に当事者意識があること自体は悪くありません。
ただ、それはまともな土台の上で言う話です。
土台がないまま当事者意識だけ求めるのは、単に会社の未完成さを社員へ転嫁しているだけです。
7. 配置転換の融通が効かず、人間関係で詰むと終わりやすい
若手にとって、これはかなり深刻です。
大手やある程度成熟した会社には、少なくとも逃げ道があります。
- 部署異動
- 職種変更
- 上司変更
- プロジェクト変更
- 一時的な退避先
もちろん簡単ではないですが、会社の器が大きい分、調整余地があります。
一方でベンチャーは、そもそも人数が少ないです。
組織も薄いです。
その結果、配属や上司との相性が悪かったときに逃げ道がありません。
- 上司が合わない
- 社長の方針がしんどい
- チームの空気がきつい
- 特定の人と詰んだ
こうなったときに、異動して解決、ができないことが多いです。
結果として、退職しかなくなります。
若手はまだ、自分に合う環境も、合わない上司のタイプも、十分にわかっていないことが多いです。
だからこそ、最初の会社には逃げ道があった方がいいです。
その意味で、器の小さい会社は不利です。
8. 無名企業だと、次のキャリアで得をしにくい
これはかなり現実的な話です。
どれだけ中身が大事だと言っても、転職市場にはラベル効果があります。
- どの会社にいたか
- どの規模の事業を経験したか
- どういう看板の下で働いていたか
これらは、思っている以上に見られます。
無名ベンチャーに行くと、次の転職で何が起こるかというと、
説明コストが増えます。
- その会社は何をしているのか
- どのくらいの規模か
- そこで何をやっていたのか
- その経験は他社でも通用するのか
毎回これを説明しなければいけません。
一方で、一定以上の知名度や成熟度がある会社にいると、土台の説明を省略できます。
そのぶん、自分の役割や成果の話に入りやすいです。
若手のうちは、個人の実績だけで市場を殴り切るのが難しいことも多いです。
だからこそ、最初の看板は思っているより大事です。
9. 社長のワンマンが強く、振り回されやすい
ベンチャーの良さとして、トップとの距離の近さが語られることがあります。
ただ、これは裏を返せば、
トップの気分や思想がそのまま会社に落ちてくる
ということでもあります。
- 昨日までの方針が急に変わる
- 一声で優先順位がひっくり返る
- 組織の都合より創業者のこだわりが優先される
- 合理性より好き嫌いが強く出る
これがハマればよいのですが、ハマらないとかなりきついです。
そして若手ほど、トップの好き嫌いやノリに振り回されやすいです。
評価制度や仕組みより、人間の力学が前に出やすいからです。
もちろん、大企業にも理不尽はあります。
ただ少なくとも、大企業は個人の気分だけで全部が動く度合いは比較的小さくなりやすいです。
ベンチャーはその逆です。
人が少ない分、創業者の影響力が大きすぎます。
10. 悪い方向にガツガツした人が多く、空気に疲れやすい
これは少し言語化が難しいですが、実際かなりあると思っています。
ベンチャーには、前向きで優秀な人ももちろんいます。
一方で、
- 実力以上に自己演出が強い
- 言葉だけは大きい
- 熱量で押し切ろうとする
- 落ち着いて積み上げるより、何者か感を出したがる
- 組織の未熟さを、美談や精神論で包む
という空気も生まれやすいです。
なぜそうなるのか。
構造的には、ベンチャーが
- 将来性
- 成長
- 裁量
- 挑戦
- 圧倒的
のような言葉を好みやすいからです。
こういう環境では、地に足のついた人より、勢いのある人の方が目立ちます。
すると、落ち着いて仕事をしたい人ほど疲れます。
悪い意味でガツガツした人が多い職場は、仕事の中身以上に空気で消耗します。
それなら、派手さはなくても、落ち着いた中小企業の方がよほどまともなことがあります。
ベンチャーより、落ち着いた中小企業の方がいいことも多い
ここは大事です。
ベンチャー批判をすると、すぐに
「では大企業しか正解なのか」
という話になりがちです。
でも実際には、そうでもありません。
個人的には、変にイキっているベンチャーより、
地味でも落ち着いた中小企業の方が全然いい
ケースは普通にあると思っています。
理由は単純です。
- 事業が現実的
- 無茶な成長幻想が少ない
- 経営者が地に足ついている
- 社員に過剰な自己演出を求めない
- 生活と仕事のバランスを崩しにくい
- 派手な言葉でごまかさず、普通に仕事を覚えられる
若手に本当に必要なのは、
「圧倒的成長の物語」ではなく、
まともな構造の中で、ちゃんと仕事を覚えられることです。
その観点で見ると、落ち着いた中小企業は意外と悪くありません。
もちろん会社によります。
ただ少なくとも、ベンチャーだから偉い、大手以外ならベンチャーの方がいい、みたいな見方はかなり危ないです。
では、どんな会社なら入ってもよいのか
ここまでかなり厳しく書きましたが、すべてのベンチャーがダメだと言いたいわけではありません。
入ってよい会社の条件もあります。
たとえば次のような会社です。
- 収益基盤が安定している
- 黒字またはそれに近い形で事業が回っている
- 特定分野で明確な強みがある
- 育成方針があり、若手の扱いが言語化されている
- 評価制度や役割定義が最低限整っている
- 創業者依存ではなく、組織で回り始めている
- 出身者の転職先が強い
- 未整備を「勢い」でごまかしていない
つまり、見るべきなのは「ベンチャーかどうか」そのものではなく、
会社の構造がどれだけまともかです。
ただ、その構造がまともである確率を考えると、若手が安易にベンチャーへ飛び込むのはおすすめしにくい、という話です。
結論:若手が見るべきなのは勢いではなく、構造のまともさ
自分が「ベンチャーはやめとけ」と思う理由をまとめると、こうです。
- 収益が安定しない
- 未整備な組織を社員が支えがち
- 忙しさを成長と誤認しやすい
- オペ依存で労力の使い方が悪い
- 小さい事業経験が必ずしも強いわけではない
- 成功時のうまみは創業者側に寄りやすい
- 配置転換の逃げ道が少ない
- 無名企業は次のキャリアで得しにくい
- ワンマン経営に振り回されやすい
- 悪い方向にガツガツした空気で消耗しやすい
だからこそ、若手が会社を選ぶときは
「成長できそうか」
「裁量がありそうか」
ではなく、
この会社は、まともな構造の上で人を育てられるか
を見るべきだと思います。
ベンチャーは、その問いに対して外れを引きやすい。
だから自分は、まず一度
ベンチャーはやめとけ
と言っておきたいです。
